冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「え、待って? ねえ待って? 結婚って……え、付き合ったんだよね? あれ、いつの話だったっけ? ちょ、急展開すぎ! 全部話しなさい!」

 絵美の勢いに飲まれ、あさひは料理に手をつける暇もないまま、洗いざらい吐かされる。
 レモンサワーの量だけがぐんぐん減っていく。

「私も見たかったなー如月さんと野々上さんの『男の対決』」
「面白がらないでよ」

 あれから二、三日は、景になにか言われるかもしれないと身構えていたけれど、特に何事もなかった。風の噂では結麻と別れたらしいけれど、真偽はわからない。

 あさひが次に景と話をするのは、仕事で必要が生じたときだろう。

「式はどうするの? 新婚旅行は? そうそう、新居は?」

 絵美の矢継ぎ早の質問にたじたじになりながら、あさひは何杯目かのお酒のお代わりを注文する。
 ひと息つかせてほしい、という意味をこめて、あさひはシーフードの塩炒めをつまんだ。レモンサワーできゅっと締めるのが美味しい。

「六月に凌士さんのお家が懇意にしてるホテルで、予定してる。絵美も空けておいてくれる?」
「もちろん! 楽しみにしてる」

 凌士は不動産屋に探させた、といくつか物件を見せてくれたけれど、例によってそのスピード感にあさひはたじたじだった。けっきょく決めきれずに、凌士の部屋に引っ越すことにして話がついた。

 凌士は「子どもができたら、今度こそ引っ越すぞ」と宣言していたけれど。
 新婚旅行は仕事との兼ね合いで、夏の休暇にくっつけることになりそうだ。
 式といい新婚旅行といい、決めることが多い。ひょっとすると仕事よりも大変かもしれない。

 けれど、あさひより多忙なはずの凌士のほうが嬉々として考えてくれるから、その姿を見るだけであさひも満たされる。
 思いきって凌士に飛びこんでよかったと、心から思う。

 どんな出会いが、人生を変えるかわからないのだ。

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