冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「え!? なんで? 教えて」

 あさひが食い下がるも、絵美は含み笑いをするだけで答えない。

「簡単なことよ」 

 しかもハイテンションでさらにお酒を注文する。

「よし、じゃあ私の話を聞いたら教えてあげる。私も実は、最近彼氏ができたんだよね」
「やだ、それ先に言ってよ!」

 あさひも小籠包をつまみつつ、今度は問いつめる番だ。
 気づけばすっかり酔いが回り、テーブルの皿も空になっている。それでもまだ飲み足りない。
 あさひたちはお酒をサワーから果実酒に変え、デザートも注文して盛り上がった。
 時間が矢のように過ぎ、あっというまに終電の時間だ。
 あさひは絵美がトイレに立つあいだに、凌士にメッセージを送る。遅くなったので迎えにこなくてもいいと書いたけれど、凌士からは行くと即答された。

「もー、あさひってば私がいないのをいいことに旦那といちゃいちゃしてー」

 いつのまにかトイレから戻った絵美に、トーク画面を覗きこまれている。あさひは慌ててスマホをしまった。

「旦那だなんて、まだ気が早いよ。凌士さん、迎えにきてくれるって」
「猛禽は撤回しなきゃだわ。甲斐甲斐しいね」
「ふふっ、猛禽……はそのとおりだったかも」

 などと話しているうちに、凌士から店の前に着いたと連絡がくる。連絡してからまだ五分と経っていない。
 あさひたちは驚きつつも会計を済ませ、店を出た。店のすぐ前の路肩に車が停まっている。ドアにもたれていた凌士が、あさひたちに気づいて近づいた。

「飲み過ぎるなと言ったはずだが」
「つい飲んじゃいました。楽しいお酒でした……」

 ふわふわと夢心地で返事をした弾みに、足元がふらつく。すかさず凌士があさひの腰を支えた。

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