冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
エピローグ
 三月某日。
 RS企画部の朝礼が終わり、今期の送別会は花見にするかと部内が盛り上がるなか、あさひが席につこうとしたときだった。事業開発統括本部の席がある一帯に、張りのある声が響いた。

「皆、始業の前にちょっといいか。話しておくべきことがある」

 辺りがざわつき、事業開発統括部下にある各部の部員が立ちあがる。RS企画部以外にも、新事業開発部やエネルギーサービス事業開発部、新エネルギー自動車事業開発部の部員もだから、総勢で約七十名ほどだろうか。

 あさひもまた首をかしげながら立ちあがり、皆が声の主である凌士に体を向ける。

 そのときちらりと目が合い、あさひはとっさに目を伏せた。凌士の目がとびきり甘かった。
 嫌な予感がする。

(これってひょっとして……!? 逃げたい……!)

 心臓がばくばくと激しく鳴る。頬が熱い。頬だけでなく、耳もきっと赤く染まっている。いたたまれなさで心臓が痛い。
 凌士の意思は聞いていたし、あさひも了承はしたけれど。
 てっきり、ほかの役員に報告するものだと思っていた。

(こんな形でなんて、聞いてない……!)

 部員が皆、窓を背にした凌士のほうを向くなか、あさひだけがうつむいたまま顔を上げられない。

「皆、如月モビリティーズをよく支えてくれて、感謝している」

 朗々とした声が、早くも春の陽気を感じる三月の朝に響き渡る。けげんな顔をしつつ、誰もがその声に聞き入る。
 いつのまにか、ほかの部署の人間まで凌士の口上に何事かと注目し始めた。

「これからも皆の働きに応え、如月モビリティーズの基盤を盤石にし、さらに飛躍させていくと約束する。――そこでだ」

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