冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
(ここ、どこ……!? たしか、昨日は)

 地下のバーで凌士と出会って。凌士に向かって、胸の内を吐きだした。それに……だいぶ飲んだ気がする。だいぶ、なんて可愛いものじゃない。

 意識が一気に覚醒した。

 あさひは蒼白になって両手で顔を覆った。脈が乱れ打つ。なにはともあれ、と自分の身をたしかめる。

 なめらかな肌触りのニットとパンツは昨日の服装のままだ。下着も、膝丈のストッキングすら脱いだ形跡はなく、そのことにまずほっとする。酔って脱いだり、その先に進んでいたら目も当てられない。

 だからといって、動揺がおさまるはずもない。

 あさひはベッドから下りると、祈るような気持ちで寝室のドアを開けた。
 おそるおそる廊下を進む。それにしても広い。全部でいったい何部屋あるのだろう。
 夢であってほしいと心から願う。あさひはリビングに足を踏み入れた。夢であれ。夢でなければこの部屋はきっと……。

「統括部長……」

 凌士は、ソファに仰向けで体を投げ出して眠っていた。

 体に対してソファの幅が足りておらず、スウェットに包まれた脚がはみ出ている。
 あさひはパニックになった。昨日は凌士に泣き顔を見られたあげく、タクシーの中で眠ってしまった。人生最大の失態だ。
 凌士はさぞ困っただろう。寝てしまったあさひをどうすることもできず、しかたなしに連れ帰ってきたのが容易に想像できる。

(う……そ……上司にこんな迷惑をかけて……!)

 錯乱(さくらん)のままに頭を抱えていると、凌士が身じろぎした。

 綺麗な顔立ちだな、なんて場違いな感想を抱いたのもつかのま、あさひはますますいたたまれなくなった。ソファでは窮屈なのだろう、眉間に皺が寄っている。

 思わず顔を覆い、はっとした。さっきは気づかなかったけれど、メイクを落とさずに寝たせいで肌がガサガサだ。泣きはらしたまぶたも、ひりついて痛い。きっと腫れているに違いない。

(どうしよう……!)

 なにはともあれ、謝らなくては。これは全面的にこちらが悪い。

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