冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
一章 最低の日
「景ちゃんって、あの野々上課長!?」
きゃあっ、と甘ったるさを乗せた悲鳴が個室の薄い扉越しに耳をつく。 あさひは思わず、トイレの個室で息をひそめた。
後輩たちは、あさひが個室にいることなど思いもよらない様子で、声を黄色く弾けさせる。
「えへへ。うん。付き合ってる証がほしいって、おねだりしたら買ってくれたの」
視界がぐらりと回る。あさひは個室のドアをにらみ、ニットを着た体を両腕でかき抱いた。そうでもしないと、倒れそうだった。
顔から血の気が引いていく。
(付き合ってる……?)
砂糖菓子を思わせる声が、あさひの頭を乱暴に叩く。
あさひが購買部から今の企画部へ異動する二ヶ月前まで、直接指導していた結麻だ。いつも髪とメイクに手をかけていて、ふんわりしたスカートや淡い色あいの服が似合う後輩。
あさひは、見た目の雰囲気からして砂糖菓子さながらである結麻の顔を思い浮かべる。
苦いものが喉元までこみ上げた。
「いいなーそれ、秋冬の新作リングでしょ? 雑誌で見たことある。可愛いー」
もうひとりの女性社員が、某有名ブランド名を挙げてはしゃぐ。あさひは奥歯を噛みしめた。
「いいなあー。三十二歳独身で役職者でしょ、収入も文句なし。しかも恋人の言うことをなんでも聞いてくれるって、最高じゃーん。でも、野々上課長ってたしか碓井さんと付き合ってるらしいって、言ってなかった?」
あさひはどきりとして、意味もなく胸下まで伸びた髪を耳にかける。
きゃあっ、と甘ったるさを乗せた悲鳴が個室の薄い扉越しに耳をつく。 あさひは思わず、トイレの個室で息をひそめた。
後輩たちは、あさひが個室にいることなど思いもよらない様子で、声を黄色く弾けさせる。
「えへへ。うん。付き合ってる証がほしいって、おねだりしたら買ってくれたの」
視界がぐらりと回る。あさひは個室のドアをにらみ、ニットを着た体を両腕でかき抱いた。そうでもしないと、倒れそうだった。
顔から血の気が引いていく。
(付き合ってる……?)
砂糖菓子を思わせる声が、あさひの頭を乱暴に叩く。
あさひが購買部から今の企画部へ異動する二ヶ月前まで、直接指導していた結麻だ。いつも髪とメイクに手をかけていて、ふんわりしたスカートや淡い色あいの服が似合う後輩。
あさひは、見た目の雰囲気からして砂糖菓子さながらである結麻の顔を思い浮かべる。
苦いものが喉元までこみ上げた。
「いいなーそれ、秋冬の新作リングでしょ? 雑誌で見たことある。可愛いー」
もうひとりの女性社員が、某有名ブランド名を挙げてはしゃぐ。あさひは奥歯を噛みしめた。
「いいなあー。三十二歳独身で役職者でしょ、収入も文句なし。しかも恋人の言うことをなんでも聞いてくれるって、最高じゃーん。でも、野々上課長ってたしか碓井さんと付き合ってるらしいって、言ってなかった?」
あさひはどきりとして、意味もなく胸下まで伸びた髪を耳にかける。