冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「もちろんだ。そうしてくれ」

 凌士はほっと息をついた。声にも安堵が乗ったのが、自分でもわかる。
 あさひの言葉ひとつで振り回されていると、自覚せざるを得ない。
 顔を見たら、もっと振り回されるのだろう。それでも、もう二度とあさひを手放す気はなかった。
 
     *
 
 新幹線からホームに降り立った凌士が、雑踏の中で目を見開く。あさひは無意識に笑みを広げた。

「おかえりなさい。驚きました?」
「驚いた。改札口にいると思っていた」
「最初はそのつもりだったんですけど、ホームで待つほうが早く凌士さんの顔を見られるかなと思いまして」

 あさひは声を弾ませたが、逆に凌士はぐっと眉を寄せた。思っていたのと違う反応に、あさひははっとした。いかにも浮かれた発言ではないか。

 昨夜の凌士の言葉を真に受けたのが恥ずかしい。あさひは顔から火が出るような羞恥に身をすくめた。

「なんて、たまたま間違えて入っちゃっただけですから。お気になさらないでくださいね」

 いきなり重い女だと思われたかと反省し、空気が沈まないように笑って取りつくろう。ところが凌士はさらに眉を寄せた。

「そうなのか。早まって抱きしめるところだった」
「はい!? 怖い顔をなさっていましたが……?」
「やに下がった中年の男の顔なんて、気持ち悪いだろうが。こらえていた」
「えっ、え……? と、とにかく凌士さんはまだ中年じゃないですよ」
「それは安心した」

 頬に熱が上っていく。ほっとしたのと、抱きしめると臆面もなく言われた気恥ずかしさで声が裏返る。凌士が目元を甘くして、荷物を片手に持ち直した。

 あさひは羞恥に耐えきれず、顔を逸らしてそそくさと歩き始める。と、だしぬけにその手を引かれた。

 たった今あさひが立っていた場所を、酔っ払った男性ふたりが大声でしゃべりながら、足元もおぼつかなくふらふらと歩いていく。

「隣にいろ。危ない」
「はい。……ありがとうございます」

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