冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
*
首から下げたIDカードでセキュリティーを抜けると、凌士は会議室のひとつに足を踏み入れる。あとをついていったあさひは、中を見回してにわかに緊張した。
革張りの椅子が円卓を囲むように並べられている。本来はあさひが入ることのできない、役員専用の会議室だ。
「先日の打ち合わせの件でしたら、今日にでも企画書をお出しできますので——」
「いや、その件じゃない」
凌士は会議室のドアに内側からロックをかけると、あさひを上座のある窓際へ来るよう指示した。
「では、どの業務の件でしょうか。それとも新規ですか?」
役員しか入れない会議室で朝一番に、しかもロックまでかけての話となると、どれほどの重要案件なのか。あさひは窓を背にして立つ凌士の前で、両手を握り合わせる。
凌士は前置きもなく切りだした。
「あさひ、結婚しよう」
「………………はい?」
あさひは目をしばたたいた。
凌士の言葉の意味を理解するのに、数瞬の間があった。
「統括? すみません、それはいったいどんな業務でしょうか……」
「業務とは関係ない。俺たちは結婚するのがいい。それも至急でだ」
「えっ…………と?」
ふたりきりにも関わらず、あさひはつい左右を確認した。
背もたれつきの黒い革張りの椅子がずらりと並ぶのは、たしかに役員会議室だ。隅にはあさひの背ほどの丈の観葉植物の鉢植え。天井には、スクリーンが格納されている。
間違いなく、職場だ。
(なのに、業務じゃない? 結婚? 凌士さんとわたしが? あ、ひょっとして忘年会の余興?)
思考がままならなくて、支離滅裂になってしまう。喉の渇きを覚え、あさひは唇を舐めた。
心臓の音が大きさを増し、鼓膜をも突き破りそうだ。
「……統括、なにがあったんですか?」
「今は統括じゃない。凌士だ」
首から下げたIDカードでセキュリティーを抜けると、凌士は会議室のひとつに足を踏み入れる。あとをついていったあさひは、中を見回してにわかに緊張した。
革張りの椅子が円卓を囲むように並べられている。本来はあさひが入ることのできない、役員専用の会議室だ。
「先日の打ち合わせの件でしたら、今日にでも企画書をお出しできますので——」
「いや、その件じゃない」
凌士は会議室のドアに内側からロックをかけると、あさひを上座のある窓際へ来るよう指示した。
「では、どの業務の件でしょうか。それとも新規ですか?」
役員しか入れない会議室で朝一番に、しかもロックまでかけての話となると、どれほどの重要案件なのか。あさひは窓を背にして立つ凌士の前で、両手を握り合わせる。
凌士は前置きもなく切りだした。
「あさひ、結婚しよう」
「………………はい?」
あさひは目をしばたたいた。
凌士の言葉の意味を理解するのに、数瞬の間があった。
「統括? すみません、それはいったいどんな業務でしょうか……」
「業務とは関係ない。俺たちは結婚するのがいい。それも至急でだ」
「えっ…………と?」
ふたりきりにも関わらず、あさひはつい左右を確認した。
背もたれつきの黒い革張りの椅子がずらりと並ぶのは、たしかに役員会議室だ。隅にはあさひの背ほどの丈の観葉植物の鉢植え。天井には、スクリーンが格納されている。
間違いなく、職場だ。
(なのに、業務じゃない? 結婚? 凌士さんとわたしが? あ、ひょっとして忘年会の余興?)
思考がままならなくて、支離滅裂になってしまう。喉の渇きを覚え、あさひは唇を舐めた。
心臓の音が大きさを増し、鼓膜をも突き破りそうだ。
「……統括、なにがあったんですか?」
「今は統括じゃない。凌士だ」