冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「そんなわけにもいかないでしょう? わたしは気にしていませんから、凌士さんも気にしないでください」
「いや、気にするなというほうが無理だ。俺と結婚すれば、この先あの手の連中とも嫌でも関わる機会が増える。連中はなまじ権力を持つだけに、弱い人間に悪意を向けることにためらいがない」
「だから、わたしを離そうとされたんですね」
凌士が顔を歪め、あさひの手をきつく握り直した。
「先に注意しておけばよかったな。次からは、俺からすぐ離れてくれていい」
「そんなことをしたら、凌士さんの心象が悪くなります」
「俺は別にいい、慣れてる。それより、今の一件で結婚を拒まれるほうがキツいな。ああいうデメリットは、俺が退ける。だから今の一件だけで判断しないでくれ」
歩道の真ん中で立ち止まり、凌士が珍しく弱った声でうなだれる。あさひは繋いだ手にもう一方の手を重ね、軽くぽんと叩いた。
「……凌士さん、コーヒー飲みませんか? 冷えてきちゃいました」
イブではなくとも、クリスマスの夜の店はどこもそれなりに混んでいた。凌士の部屋へ行くことも考えたけれど、明日は仕事がある。いつかのように、凌士の腕から抜け出すのに苦戦したら困る。
あさひたちは最初の二軒を満席で諦めた。レトロといえば聞こえのよい、だが実態は時代に取り残されたかのような趣の喫茶店に入る。
老いたマスターひとりが佇むカウンターでは、使いこまれたサイフォンがいい音を立てている。コーヒーにこだわりがあるらしい。あさひはその隣に、小さなクリスマスツリーが飾られているのを見つけてほっこりした。
凌士がアイスコーヒーを、あさひはカプチーノを注文して、さっそく切り出す。
「さっきの話。わたしからも質問していいですか? これまでずっと、凌士さんはわたしのメリットばかり考えてくださっていたでしょう。でも凌士さんには、わたしとの結婚にどんなメリットがありますか? わたしはごく平凡な家庭に生まれた、一般社員ですよ?」
「あさひと形の上でも繋がっていられる。最大のメリットだ」
あまりにきっぱりとした即答に、あさひはつかのまぽかんとした。
「今は、俺はどう足掻いてもあさひの『外側』の人間だ。だが、結婚すればあさひの身内になれる。内側の人間になれば、あさひが弱ったときにも、今よりそばでなんとかしてやれる。出会ったときのようにそばにいてやれる偶然が、この先に何度もあるとは限らないからな」
あさひは思わず、運ばれてきたカプチーノのカップに目を落とした。両手でそっと包んだけれど、口をつけられない。
「いや、気にするなというほうが無理だ。俺と結婚すれば、この先あの手の連中とも嫌でも関わる機会が増える。連中はなまじ権力を持つだけに、弱い人間に悪意を向けることにためらいがない」
「だから、わたしを離そうとされたんですね」
凌士が顔を歪め、あさひの手をきつく握り直した。
「先に注意しておけばよかったな。次からは、俺からすぐ離れてくれていい」
「そんなことをしたら、凌士さんの心象が悪くなります」
「俺は別にいい、慣れてる。それより、今の一件で結婚を拒まれるほうがキツいな。ああいうデメリットは、俺が退ける。だから今の一件だけで判断しないでくれ」
歩道の真ん中で立ち止まり、凌士が珍しく弱った声でうなだれる。あさひは繋いだ手にもう一方の手を重ね、軽くぽんと叩いた。
「……凌士さん、コーヒー飲みませんか? 冷えてきちゃいました」
イブではなくとも、クリスマスの夜の店はどこもそれなりに混んでいた。凌士の部屋へ行くことも考えたけれど、明日は仕事がある。いつかのように、凌士の腕から抜け出すのに苦戦したら困る。
あさひたちは最初の二軒を満席で諦めた。レトロといえば聞こえのよい、だが実態は時代に取り残されたかのような趣の喫茶店に入る。
老いたマスターひとりが佇むカウンターでは、使いこまれたサイフォンがいい音を立てている。コーヒーにこだわりがあるらしい。あさひはその隣に、小さなクリスマスツリーが飾られているのを見つけてほっこりした。
凌士がアイスコーヒーを、あさひはカプチーノを注文して、さっそく切り出す。
「さっきの話。わたしからも質問していいですか? これまでずっと、凌士さんはわたしのメリットばかり考えてくださっていたでしょう。でも凌士さんには、わたしとの結婚にどんなメリットがありますか? わたしはごく平凡な家庭に生まれた、一般社員ですよ?」
「あさひと形の上でも繋がっていられる。最大のメリットだ」
あまりにきっぱりとした即答に、あさひはつかのまぽかんとした。
「今は、俺はどう足掻いてもあさひの『外側』の人間だ。だが、結婚すればあさひの身内になれる。内側の人間になれば、あさひが弱ったときにも、今よりそばでなんとかしてやれる。出会ったときのようにそばにいてやれる偶然が、この先に何度もあるとは限らないからな」
あさひは思わず、運ばれてきたカプチーノのカップに目を落とした。両手でそっと包んだけれど、口をつけられない。