冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
 あさひは凌士から目を逸らしてカプチーノを口に運ぶ。ふわふわのミルクが乗ったカプチーノは優しい味がして、あさひはその優しさに心がほぐれる思いで正直な気持ちを口にした。

「わたしは、迷ってばかりで」
「知ってる」
「今だって、凌士さんの気持ちが嬉しいのに、素直にうなずけないんです」

 カウンターの下で、膝に置いたあさひの手に凌士の手が触れる。
 驚いて凌士のほうを見れば、凌士は平然とアイスコーヒーを飲みながら手を深く絡めてくる。
コーヒーカップを持ったあとのあさひの手より、わずかに温度の低い手。でも大きくて包みこまれる。好きだなとあらためて思う。

 それでもやっぱり、胸に引っかかるものがある。それは、スピード感の違いばかりが原因でもない気がした。
 正体はまだつかめないものの、かといってあさひには知らないふりもできない。こんなとき、シンプルに初心だけがあれば答えもすぐに出ただろうに。

「年明けまでは待つぞ」
「……はい。メリー・クリスマス、凌士さん」

 カウンターの向こうでマスターが売れ残りのケーキを出してくれる。
 あさひはありがたく受け取り、凌士とふたり、サンタクロースの砂糖菓子が乗ったショートケーキをシェアする。子どものころのクリスマスを思い出す、どこか懐かしい味がする。

「わたしたち、だいぶ大人になっちゃいましたね」
「大人になったから、恋人と将来の話もできる。いい夜だな」

 マスターの目を盗んで凌士が溶けそうに甘いキスを仕掛けてくる。あさひはけっきょく、凌士の家で夜を過ごした。
 
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