冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
     *

 オフィスは三十階にあるが、社員専用のカフェテリアは十階にある。
 あさひが昼休憩を取るためにエレベーターに向かったときは、先発で休憩に入った社員が戻ってくるころだった。カフェテリアはおなじビルに勤務するグループ会社とも共用のため、ピーク時の混雑を緩和するために昼休憩の時間は会社や部署によっても違うのだ。

 下りのエレベーターを利用するのは、あさひともうひとりの男性だけらしい。到着したエレベーターに先に乗りこみ、もうひとりが乗りこむのに合わせて開のボタンを押していたあさひは、そのうしろから姿を現した凌士に目をみはった。              

「……あけましておめでとうございます。統括も今からお昼ですか?」
「ああ、碓井もか」

 ほかの社員も乗っている手前、プライベートな話題は出せない。
 あさひは自分のうしろに立つ凌士に少しの居心地の悪さを覚えながらも、それきり口をつぐんだ。

 十階でもうひとりの社員が下りる。あさひは開ボタンを押して凌士が下りるのを待ったが、凌士はあさひに扉を閉めさせると一階を押した。

 ふたりきり。

「もしかして、お昼ご一緒できますか?」

 外でなら場所さえ選べば、一緒にいるところを見られる心配は少ない。凌士は「ああ」と首肯すると、頭を屈めた。

「顔色が冴えないな」
「えっ、そうですか? お正月休みでたっぷり休養しましたよ。今日からまたもりもり働きます」
「俺の前で隠すな。手嶋か」
「……見ておられたんですか」

 凌士に情けない姿を見られたくはなかった。部下のひとりも満足に使えないチーフだと思われるのは堪える。
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