冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「そうじゃないです。そうじゃなくて……わたしは、凌士さんを支えたいんです」

 ガラス細工の工房で出会った女性を思い出す。プロポーズをされたものの、恋人を夫婦として支える自信がなくて見送ったという話を。

 あさひもおなじだった。
 受け止められて、与えられる……それだけでは足りない。あさひは、支えられるだけではなくて凌士を支えたいのだ。

「凌士さんは、如月モビリティーズを背負って立つひとです。凌士さん自身にどれだけ近づいても、これは動かせない事実です」
「俺が如月の人間でなければよかったという意味か。仮定の話は不毛だ」
「違うの、事実だからこそ、わたしもその事実に見合う自分になりたいんです。自分で自分に納得して、凌士さんの隣にいたい」

 凌士は黙ってあさひの言い分に耳を傾けている。そのことにいいようのない安堵を覚えながら、あさひは思いをすべて吐き出す。

「だけど今はまだ納得できないんです。部下にもチーフだと認められていない状態なのに、凌士さんの隣に立つ自信がないの。凌士さんを上司としても尊敬してるからこそ、もっと力をつけてから隣に立ちたい」

 昼間の出来事が頭をよぎる。少なくとも部下に認められるようでなければ、あさひを妻にする凌士の評価まで下げてしまう。
そんなのは、あさひ自身が許せない。

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