冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
 波のようにうねる喜悦に意識をほとんど持っていかれながら、あさひは切れ切れに訴えた。

「わたしの気持ちは、いまお伝えしてます……っ。凌士さんにプロポーズされて、嫌なわけ、ない」
「そうか」

 ふ、と凌士が口の端を上げる。
 次の瞬間、もっとも深い場所を責め立てられ、あさひはたまらず甘い声を細く迸らせた。

「……っ、凌士さん……ッ」

 頭が白く染まり、あさひは凌士の上に折り重なるようにして倒れこむ。
 抱き留めた凌士が、あさひの髪を梳く。一度、二度。……三度。最初は心もち強く、しだいにそっと優しく。

「どうした、もう終わりか? 伝え足りないんじゃないか? どうやら俺のほうが、あさひを好きなようだぞ」

 乱れた髪を繰り返し梳かれ、凌士の指が耳に触れる。
 息も絶え絶えのあさひとは反対に、凌士はまったく疲れを見せない。声にも余裕が感じられる。
 けれど、その表情にわずかに陰が差すのが見え、あさひは凌士の頬に手を添えた。

(そんな顔をさせたいんじゃない)

「わたしだって……ほんとうに好きで」

 切れ切れに言うと、凌士があさひの手のひらに唇を寄せる。胸が締めつけられたそのとき、凌士があさひの目をまっすぐ射抜いた。

「まあいい。俺は俺で、思うとおりにやるだけだ」
「えっ?」
「覚えておけ。あさひだけが、俺にとっての女だ。逃すつもりも無駄に待つつもりもない」
 その言葉の意味をあさひが知るのは、それからまもなくのことだった。

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