冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
*
左腕の腕時計に目を落とすと、定時を十五分過ぎたところだった。複数の事業本部のメンバーによる横断会議を終えた面々は、いそいそと会議室を出ていく。
凌士は、最後に出ようとした男を呼び止めた。
「今日は購買部の貴重な意見をうかがえて、有意義なものになりました」
振り向いた男が、凌士を認めて足を止める。
「こちらこそ、意見を参考にしていただいて意外でした。事業開発本部は将来への先行投資という文句を盾にして開発予算を顧みない、購買の意見に耳を貸さない、と部内で散々聞かされていましたから」
「一理あると思っただけですよ。これまでも、はなから切り捨ててきたわけではありません」
にこやかに返しながら、凌士はあらためて男のネームカードに目を走らせる。
管理統括本部購買統括部 購買部課長 野々上景。
今日の会議は本部長と統括部長のみが対象者だ。野々上は代理出席だろう。
「碓井をそちらに出したときは、冷徹と評判の如月統括の下では保たないかもしれないと危惧したものですが、杞憂だったようです」
「ああ、貴方が碓井の元上司でしたか」
凌士はいま気づいたという風に眉を上げてみせた。
「一度、お話したいと思っていました。一服しませんか」
「こちらこそ」
凌士は野々上と、十階のカフェテリアに連れ立った。
定時直後のカフェテリアは、まだ夕食にも早いからかがらんとしている。凌士たちはコーヒーを手に、パーティションで半個室に区切られた窓際の席に腰を落ち着けた。
ここなら、フロアと同階のリフレッシュスペースよりも、ひとに聞かれる怖れは少ない。
当たり障りのない話で様子を探りながら、凌士はそれとなく野々上を観察する。
垂れ気味の甘い目に穏やかな笑み。凌士から見れば頼りなさそうだが、こういうのが母性本能をくすぐるタイプというやつかもしれない。
「碓井は、そちらでどうですか? 足を引っ張っていなければいいのですが」
「よくやっていますよ。RS企画部長の時枝が、『仕事相手を不快にさせない仕事ができる』と褒めていましてね。いい人材をいただきました」
そうですか、と野々上がやや気色ばんでホットコーヒーを飲む。
左腕の腕時計に目を落とすと、定時を十五分過ぎたところだった。複数の事業本部のメンバーによる横断会議を終えた面々は、いそいそと会議室を出ていく。
凌士は、最後に出ようとした男を呼び止めた。
「今日は購買部の貴重な意見をうかがえて、有意義なものになりました」
振り向いた男が、凌士を認めて足を止める。
「こちらこそ、意見を参考にしていただいて意外でした。事業開発本部は将来への先行投資という文句を盾にして開発予算を顧みない、購買の意見に耳を貸さない、と部内で散々聞かされていましたから」
「一理あると思っただけですよ。これまでも、はなから切り捨ててきたわけではありません」
にこやかに返しながら、凌士はあらためて男のネームカードに目を走らせる。
管理統括本部購買統括部 購買部課長 野々上景。
今日の会議は本部長と統括部長のみが対象者だ。野々上は代理出席だろう。
「碓井をそちらに出したときは、冷徹と評判の如月統括の下では保たないかもしれないと危惧したものですが、杞憂だったようです」
「ああ、貴方が碓井の元上司でしたか」
凌士はいま気づいたという風に眉を上げてみせた。
「一度、お話したいと思っていました。一服しませんか」
「こちらこそ」
凌士は野々上と、十階のカフェテリアに連れ立った。
定時直後のカフェテリアは、まだ夕食にも早いからかがらんとしている。凌士たちはコーヒーを手に、パーティションで半個室に区切られた窓際の席に腰を落ち着けた。
ここなら、フロアと同階のリフレッシュスペースよりも、ひとに聞かれる怖れは少ない。
当たり障りのない話で様子を探りながら、凌士はそれとなく野々上を観察する。
垂れ気味の甘い目に穏やかな笑み。凌士から見れば頼りなさそうだが、こういうのが母性本能をくすぐるタイプというやつかもしれない。
「碓井は、そちらでどうですか? 足を引っ張っていなければいいのですが」
「よくやっていますよ。RS企画部長の時枝が、『仕事相手を不快にさせない仕事ができる』と褒めていましてね。いい人材をいただきました」
そうですか、と野々上がやや気色ばんでホットコーヒーを飲む。