冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
苦笑して腕を離した凌士が、腕時計に目をやり「ここまでか」とつぶやく。
「仕事に戻るか。明日の出張準備もあるしな」
「明日はどちらへ?」
あさひの質問に、凌士はふと、思わせぶりに笑った。
「セールスの様子を見にな。定期的に、各店舗を見て回っているんだ」
凌士が仕事の顔に変わり、あさひも凌士のあとをついて三十階のフロアに戻る。
久々に、仕事への混じり気のない熱意が湧いてくる。あさひは新人さながらの意欲をもって、精力的に仕事をさばいた。
そのあいだも、胸には凌士が零した言葉が引っかかっていたけれど。
疑問が解けたのは、翌日の定時直後だ。
先日提出した企画書が本部長——凌士のさらに上司で、事業開発本部のトップだ——の目に留まり、プロジェクトとして立ち上げる前の準備を行うことになった。
そのリーダーに指名されたあさひは、さっそくその企画を進めるために必要な知見を得ようと、資料を集めたり社内外の有識者にコンタクトを取ったりしていた。
絵美から電話があったのはそんなときだった。
「あさひ、ちょっと今いい?」
まだ仕事中だというあさひに、絵美は十分で済むからと興奮気味に捲し立てる。あさひはリフレッシュスペースに移動した。
「どうしたの? 電話なんて珍しいね。なにかあった?」
「聞いてよ、今日、店舗に本体のお偉いさんが来たんだけど、誰が来たと思う? あさひの如月さんよ!」
「わたしの……って。でも凌士さんが視察に行ってるのは、絵美のところとは別の店舗じゃ」
「今日は私、ヘルプでそっちに入ってんの。って、そんなことはいいんだって! 凌士さんって呼んでるってことは、うまく行ってんのね?」
あさひはリフレッシュスペースのベンチに腰を下ろしながら、凌士と付き合ってることを簡単に報告する。絵美は電話越しでもにやにやしているのがわかる声音で、祝福してくれた。
「やっぱり、如月さんは鉄の猛禽だったわけね。執念勝ちかあ……って、そこでよ! ここからが大事」
絵美ならもっと詳しく問いつめられるかと思ったので、あさひは拍子抜けした。きっとそれだけ重要な話なのだろう。
「なに?」
「私、如月さんのことはずっとどこかで見た記憶があるなって思ってたんだよね」
「如月家の御曹司だし、一度は見てるんじゃない? イケメンだから、って絵美も言ってたじゃない」
「ううん、違った。イケメンなのはイケメンだけど、写真で見たとかじゃなくてね、会ってたのよ! 今日、セールスの店舗に来た如月さんを見て思い出した!」
「仕事に戻るか。明日の出張準備もあるしな」
「明日はどちらへ?」
あさひの質問に、凌士はふと、思わせぶりに笑った。
「セールスの様子を見にな。定期的に、各店舗を見て回っているんだ」
凌士が仕事の顔に変わり、あさひも凌士のあとをついて三十階のフロアに戻る。
久々に、仕事への混じり気のない熱意が湧いてくる。あさひは新人さながらの意欲をもって、精力的に仕事をさばいた。
そのあいだも、胸には凌士が零した言葉が引っかかっていたけれど。
疑問が解けたのは、翌日の定時直後だ。
先日提出した企画書が本部長——凌士のさらに上司で、事業開発本部のトップだ——の目に留まり、プロジェクトとして立ち上げる前の準備を行うことになった。
そのリーダーに指名されたあさひは、さっそくその企画を進めるために必要な知見を得ようと、資料を集めたり社内外の有識者にコンタクトを取ったりしていた。
絵美から電話があったのはそんなときだった。
「あさひ、ちょっと今いい?」
まだ仕事中だというあさひに、絵美は十分で済むからと興奮気味に捲し立てる。あさひはリフレッシュスペースに移動した。
「どうしたの? 電話なんて珍しいね。なにかあった?」
「聞いてよ、今日、店舗に本体のお偉いさんが来たんだけど、誰が来たと思う? あさひの如月さんよ!」
「わたしの……って。でも凌士さんが視察に行ってるのは、絵美のところとは別の店舗じゃ」
「今日は私、ヘルプでそっちに入ってんの。って、そんなことはいいんだって! 凌士さんって呼んでるってことは、うまく行ってんのね?」
あさひはリフレッシュスペースのベンチに腰を下ろしながら、凌士と付き合ってることを簡単に報告する。絵美は電話越しでもにやにやしているのがわかる声音で、祝福してくれた。
「やっぱり、如月さんは鉄の猛禽だったわけね。執念勝ちかあ……って、そこでよ! ここからが大事」
絵美ならもっと詳しく問いつめられるかと思ったので、あさひは拍子抜けした。きっとそれだけ重要な話なのだろう。
「なに?」
「私、如月さんのことはずっとどこかで見た記憶があるなって思ってたんだよね」
「如月家の御曹司だし、一度は見てるんじゃない? イケメンだから、って絵美も言ってたじゃない」
「ううん、違った。イケメンなのはイケメンだけど、写真で見たとかじゃなくてね、会ってたのよ! 今日、セールスの店舗に来た如月さんを見て思い出した!」