冷徹御曹司は想い続けた傷心部下を激愛で囲って離さない
「うん?」
「あさひがディーラー研修に来てたときよ。如月さんが店長してた!」
「え……凌士さんが店長?」
あさひは首をひねる。
如月セールスは、如月モビリティーズのグループ会社だ。凌士がグループ会社に出向したことはないはず。
「そう、間違いないって。あのころ、ちょうど店長は奥さんの出産に合わせて育休を取ってて、あの店舗は店長不在だったでしょ。だけど一日だけ、店長がいたのよ。たぶん、如月さんが臨時で店長をしてたのよ!」
「うそ……!」
ディーラー研修で、凌士があさひの配属された店舗に来ていた?
「私たちペーペーだったから、店長が不在でも正直わかんなかったでしょ? 特にあさひは本体側の社員だし、セールスの人間関係なんてそこまで深く知る機会もないし。でもあさひが本体に帰って、しばらくして店長が復帰したときに、あれ? って思ったのよね。この前、店長の名札をつけてたひとと違うなーって。それも今日の如月さんを見て、思い出したんだけどね」
店長の名札をつけていた社員。
ふと、あさひの脳裏に、背筋をすっと伸ばした男性の姿がよみがえる。
研修先の店舗で、あさひが客対応で失敗しかけたときの——。
「——あっ!」
「思い出した?」
「思い……出した……!」
あのとき、あさひを助けてくれたのは。
(どうしよう、今すぐ会いたい)
「ね? ね? 如月さんだったでしょ。しかもたぶん、如月さんの執念を遂げさせたのは——っと、ごめん、店長に呼ばれた! 行ってくる」
唐突に切れた電話の最後の言葉も耳に入らず、あさひは呆然とした。
夜の八時半に凌士の家に着くと、すでに凌士はスーツから部屋着に着替えてくつろいでいた。
「まだ食ってないんだろう? つまみ程度だが、作っておいた」
「凌士さんが!? びっくりです、嬉しい」
「驚くほどのことじゃない」
言いながらも、凌士は満更ではなさそうだ。あさひは凌士についてダイニングにつく。
絵美の話を聞いてから居ても立っても居られなくて、あさひは凌士に会う約束を取りつけたのだった。
「実はわたしも、すぐ食べられるようにと思ってお惣菜を買ってきたんですが」
「それも食べよう。腹が減った」
「はい。待っててくださって、ありがとうございます」
ふたりで席につく。テーブルの上には、たたききゅうりに味噌だれを載せたもの、クリームチーズとオニオンスライスをかつおぶしと醤油で和えたもの、車麩のチャンプルーなどのつまみが並ぶ。どれも簡単なものながら、美味しそうだ。
あさひはそこに、行きつけの中華ダイニングでテイクアウトした、酢の物や春巻きなどを追加した。
お供のお酒はもちろん、揃いのグラスに注ぐ。ふたりのときには禁酒しなくてもよいというのが、ふたりの暗黙の了解になりつつある。
乾杯して、さっそく凌士の料理を口に運んだ。
「世界一おいしい! 幸せです……!」
「大げさだ。すぐできるものばかりだぞ」
「作ってくださったのが、嬉しいんですよ」
凌士のつまみはどれもお酒に合う。ついビールを飲み進めそうになり、あさひはグラスを置いた。
けげんそうにする凌士に、笑みが押さえられない。
「わたし、思い出しました。ディーラー研修のとき、わたしを叱責なさったのは……凌士さんですよね?」
「……俺だけが覚えていると思っていた」
凌士が箸を止めて苦笑した。
「あさひがディーラー研修に来てたときよ。如月さんが店長してた!」
「え……凌士さんが店長?」
あさひは首をひねる。
如月セールスは、如月モビリティーズのグループ会社だ。凌士がグループ会社に出向したことはないはず。
「そう、間違いないって。あのころ、ちょうど店長は奥さんの出産に合わせて育休を取ってて、あの店舗は店長不在だったでしょ。だけど一日だけ、店長がいたのよ。たぶん、如月さんが臨時で店長をしてたのよ!」
「うそ……!」
ディーラー研修で、凌士があさひの配属された店舗に来ていた?
「私たちペーペーだったから、店長が不在でも正直わかんなかったでしょ? 特にあさひは本体側の社員だし、セールスの人間関係なんてそこまで深く知る機会もないし。でもあさひが本体に帰って、しばらくして店長が復帰したときに、あれ? って思ったのよね。この前、店長の名札をつけてたひとと違うなーって。それも今日の如月さんを見て、思い出したんだけどね」
店長の名札をつけていた社員。
ふと、あさひの脳裏に、背筋をすっと伸ばした男性の姿がよみがえる。
研修先の店舗で、あさひが客対応で失敗しかけたときの——。
「——あっ!」
「思い出した?」
「思い……出した……!」
あのとき、あさひを助けてくれたのは。
(どうしよう、今すぐ会いたい)
「ね? ね? 如月さんだったでしょ。しかもたぶん、如月さんの執念を遂げさせたのは——っと、ごめん、店長に呼ばれた! 行ってくる」
唐突に切れた電話の最後の言葉も耳に入らず、あさひは呆然とした。
夜の八時半に凌士の家に着くと、すでに凌士はスーツから部屋着に着替えてくつろいでいた。
「まだ食ってないんだろう? つまみ程度だが、作っておいた」
「凌士さんが!? びっくりです、嬉しい」
「驚くほどのことじゃない」
言いながらも、凌士は満更ではなさそうだ。あさひは凌士についてダイニングにつく。
絵美の話を聞いてから居ても立っても居られなくて、あさひは凌士に会う約束を取りつけたのだった。
「実はわたしも、すぐ食べられるようにと思ってお惣菜を買ってきたんですが」
「それも食べよう。腹が減った」
「はい。待っててくださって、ありがとうございます」
ふたりで席につく。テーブルの上には、たたききゅうりに味噌だれを載せたもの、クリームチーズとオニオンスライスをかつおぶしと醤油で和えたもの、車麩のチャンプルーなどのつまみが並ぶ。どれも簡単なものながら、美味しそうだ。
あさひはそこに、行きつけの中華ダイニングでテイクアウトした、酢の物や春巻きなどを追加した。
お供のお酒はもちろん、揃いのグラスに注ぐ。ふたりのときには禁酒しなくてもよいというのが、ふたりの暗黙の了解になりつつある。
乾杯して、さっそく凌士の料理を口に運んだ。
「世界一おいしい! 幸せです……!」
「大げさだ。すぐできるものばかりだぞ」
「作ってくださったのが、嬉しいんですよ」
凌士のつまみはどれもお酒に合う。ついビールを飲み進めそうになり、あさひはグラスを置いた。
けげんそうにする凌士に、笑みが押さえられない。
「わたし、思い出しました。ディーラー研修のとき、わたしを叱責なさったのは……凌士さんですよね?」
「……俺だけが覚えていると思っていた」
凌士が箸を止めて苦笑した。