鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 マリアベルとアーロンの婚約から、少しの時が経過していた。
 ゆくゆくは学院の寮に入る予定だったマリアベルは、マニフィカ家からの通学を継続している。

「婚約者なんだから、遠慮する必要はないよ」
「今まで守ってきた土地から、無理に離れる必要はないんだ」
 
 アーロンがそう言ってくれたからだ。
 マニフィカ領の守備体制は整ってきたものの、守護神状態だったマリアベルが完全に離れることに不安があるのは事実だ。
 以前なら、アーロンにそこまでさせるわけにはいかない、と寮に入っていただろうが、今は違う。
 婚約者という肩書のおかげか、彼の気遣いを受け入れることができるようになっていた。


 昼食だってそうだ。
 最初は、婚約者となった彼に「これからは一緒に学食に行く?」と聞かれた。
 もちろん、費用はアークライト家持ちだ。

「婚約したんだから、未来の妻の食事代を出すぐらいは当然だよ」

 アーロンは、いい笑顔でそう語っていた。
 しかし、友人たちとのお弁当タイムを気に入っていたマリアベルは、今から学食に変更するのは気が引けて。
 伯爵家のクラリスならともかく、平民のコレットが学食を利用するのは難しいからだ。
 その旨を伝えると、

「なら、うちできみの分もお弁当を用意するのはどうかな? どうせ僕の分を作っているのだから、それが二人分になったところで、なんの問題もないよ」

 と返された。
 少し悩んでから、マリアベルは、二日に一度はアークライト家のお世話になることにした。
 毎日お願いします、と言わなかったのは、マリアベル自身、食材の調達や調理がそれなりに好きだったからである。
 使用人は執事一人の貧乏伯爵家育ち、マリアベル。必要に駆られておこなっているうちに、家事や炊事が好きになっていた。
 公爵家の妻としては必要のないスキルかもしれないが、使用人の気持ちや家事炊事の手順がなんとなくわかるのは、無駄なことではない……気がしている。
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