鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 アーロンは、おかしそうに笑いながら、しかしその瞳には愛おしさをにじませて、マリアベルを見つめた。
 年齢はマリアベルの1つ上だから、この時点のアーロンは13歳。
 光のあたり具合で銀にも見える輝く金髪に、はちみつのような甘い色の瞳を持つ美少年だ。
 流石は公爵家の人間といったところか、髪も肌もきらっきらである。
 ただ座ってお茶を飲んでいるだけで絵になる。
 姿絵ビジネスができそうな勢いだ。

 手入れをする余裕がなく、髪はぱさつき肌もやや荒れているマリアベルとは大違い。
 今着ているちょっとばかり上等なワンピースだって、マリアベルの一張羅である。
 アーロンは、落ち着いた雰囲気の、上品で優しく、穏やかで聡明そうな男の子だが、彼の手には剣だこがあることを、マリアベルは知っている。

「……自分で領地と領民を守るきみの姿勢は、僕も好きだよ。でも、危ないことはあまりしないでね」
「あはは……」
「ベル?」 

 はい、とは言わないマリアベル。危なくたって、魔法を扱う才のある自分が動くべきだと思っているのだ。
 そんな彼女を、アーロンは咎めるようにじいっと見つめた。
 マリアベルの空色の瞳が、居心地悪そうにさまよう。
 そんな彼女に、アーロンは苦笑する。
 
「……わかってるよ。きみは、魔法の修業も魔物退治もやめないって。幼いころにあんなことがあったんだ。同じ立場だったら、きっと僕だってそうする」
「アーロン様……」
 
 彼の言葉に、マリアベルはじいんとしていた。
 アーロンは、マリアベルが血に汚れた姿も、獲物を担ぐ場面も見たことがある。
 それでも彼は、マリアベルから逃げなかった。
 領民のために戦うことを、肯定してくれる。
 マリアベルの気持ちを、理解してくれる。
 こんなふうに言ってくれる令息は、アーロンだけだった。
 マリアベルは、「鮮血のマリアベル」なんて呼ばれるようになった自分にも愛想を尽かさず、こうして会いに来てくれるアーロンのことを信頼していた。

「……アークライト公爵家の方は、やはり勇敢なのでしょうね」

 マリアベルの言葉に、アーロンは曖昧に笑った。
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