鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
「ベル……。大好き……。ありがとう……。そんなふうに思ってもらえたなんて、嬉しいよ……」

 あまりのことに、アーロンはぷるぷると震えながら両手で顔を覆い、「大好き」「ありがとう」「嬉しい」と言うだけになってしまって。
 マリアベルは、なんだか変になってしまったアーロンの隣で、おろおろすることしかできない。

「あ、あの。アーロン様……?」

 大丈夫ですか、という気持ちを込めて、そっと彼の肩に触れる。
 すると、マリアベルからの接触にぴくっと反応したアーロンは、自分の顔を覆っていた手をそっと外した。

「……ベル」
「は、はい」

 それから、真剣な瞳でじっとマリアベルを見つめていたかと思うと――。
 今度は、彼女の肩にそっと腕をまわして、優しく抱き寄せた。

「っ……! あ、アーロン様!?」

 アーロンの腕の中で、マリアベルはあわあわとしながらも頬を染める。
 暴れる、というほどではないが、慌てたマリアベルはそれなりにもぞもぞと動いていた。

「……ダメ、かな」
「そ、そういう、わけでは……ありませんが……」

 けれど、耳元から聞こえる彼の声のせいで、なんだか力が抜けてしまって。
 大好きな――そう、マリアベルは彼のことが、大好きなのだ――アーロンの逞しい腕に抱かれて、体温も、吐息も、すぐそばに感じられて。
 破裂してしまいそう、と思うぐらいに心臓がどくどくいっているけれど、こうしてくっつくことを嫌だとは思わなくて。
 すっかり大人しくなったマリアベルは、自身の手を、彼の腕に添えた。
 そうすると、ドキドキするけど、安心できて、なんだか幸せな気もして……。と、不思議な気分になる。

「……アーロン様」
「……ん? なんだい?」

 そう答えるアーロンの声は、とても穏やかだ。
 ずっとマリアベルを見てきた彼は、わかっているのだ。マリアベルが、自分にこうされることを嫌がってはいないと。
 彼女との距離が、確実に縮まってきていると。

 マリアベルは、ちょっとだけ迷う様子を見せてから、えい、と自分からも彼に身体を寄せた。
 彼女のその行動に、より近くなった体温に、アーロンは一瞬だけ、驚きに瞳を瞬かせて。
 けれどすぐに愛おしさと喜びが押し寄せてきて、愛しい人を抱きしめながら目を閉じた。
< 111 / 113 >

この作品をシェア

pagetop