鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 彼が生まれたアークライト公爵家は、武功で名をあげた家。
 この国、ソルシエ王国の剣とまで呼ばれる武の名家である。
 マニフィカ領で魔物が大量発生した際も、アークライト家の力を借りている。

 アークライト家の者も魔法を使うことができるが、特筆すべきは武器の扱いだ。
 アーロンが得意とするのは剣技で、この年にして現役で戦う大人を打ち負かす実力を持っている。
 魔法での戦いならマリアベルが勝つが、剣で戦えと言われたら、なすすべもなく完敗するだろう。
 眩しいほどにきらっきらの公爵家子息なのに、彼はごりごりの武闘派なのである。
 もちろん、嫡男として座学のほうもきっちり納めている。
 文武両道。武闘派なのに落ち着いた雰囲気の、優しげな美少年。
 それがアーロン・アークライトだ。

 マリアベルは、思う。
 脳筋仲間だから、わかってくれるのね。こんな女にも引かないでくれるのね、と。
 戦闘特化型の貴族同士、分かり合うことができるアーロンは、マリアベルにとって本当に大事な幼馴染で、友人だった。

 自分から逃げていく男たちの姿を思い出しながらも、マリアベルは語る。

「……貧乏伯爵家のうえ、私がこんな女ですから、ご縁はまったくありませんが。それはもう、まったく! みんな、逃げ出していきますが! そんなことはどうでもいいのです。領地と領民を守るほうが大事ですし……。アーロン様のように、理解してくださる方もいらっしゃいますから。私は、それで十分です」

 最後の言葉は、柔らかな微笑みとともに、アーロンに向けられた。
 
「っ……!」

 アーロンの頬が、にわかに色づく。
 ぱっと目をそらした彼を不思議に思い、マリアベルは首をかしげる。

「アーロン様?」
「いや、なんでもないよ」

 アーロンは、すぐにいつも通りの穏やかな笑みを浮かべた。
 内心どっきどきなのだが、流石は公爵家の子息といったところか。
 彼は、本心を隠して取り繕うのが得意だった。

 アーロン・アークライトは、マリアベル・マニフィカに、ずっと前から恋している。

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