鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 慌てて駆け寄るアーロンに、彼女はどやあっと親指を立てる。
 二人が近づいたことで、彼女の小柄さが引き立った。
 男女の違いもあるとはいえ、この少女は女性の中でも華奢なほうなのだ。

「お待たせしてしまいましたが、魔物の群れはしっかり倒してきました!」

 男の心配など知らず、少女はえっへんと胸を張った。

 この少女、マリアベル・マニフィカは、貧乏伯爵家の娘だ。
 マリアベルがまだ幼かったころ、マニフィカ領で魔物が大量に発生。
 人々は危険に晒され、作物も荒らされる大規模な被害を受けた。
 マニフィカ伯爵家は、私財を売り払い、借金まで作って領地と領民を守ったのだった。
 そのときの影響で、今もマニフィカ家は立派な貧乏貴族だ。
 そんな家だから領民には慕われており、彼らは助け合って暮らしている。

 マリアベルは、魔法の才に恵まれていた。天才と言ってもいいだろう。
 支援や回復系はやや苦手だが、あらゆる属性を使うことができ、特に攻撃系の魔法が得意だった。
 10歳にも満たぬころ、自身に与えられた天性の力に気がついた彼女は、決意する。
 もう二度と、領民をあんな目に遭わせないと。
 自分の力で、魔物をみんなぶっ倒してやろうと――!

 そうして、この血に濡れたご令嬢が爆誕した。
 魔法使いであるため、剣士などに比べれば返り血は少ないほうである。
 ……相手の大きさや数によっては、今日のようにべっとりになったりもするが。
 幼馴染のアーロンはこの光景にも慣れっこだが、他の令息には、ビビッて逃げられた過去もあったり。

 いつの間にかついた二つ名は、「鮮血のマリアベル」。
 伯爵家のご令嬢をそんな風に呼ぶのはいかがなものかと思うが、本人はあまり気にしていなかった。
 むしろ、自分が血を浴びて領民を守れていることを、誇っているふしすらある。

 本日も、元気に血濡れのマリアベル。
 そんな彼女を前にしたアーロンは、本当に返り血だけだとわかると、ほっとした様子で「先に着替えておいで」と微笑んだ。
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