鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 情報通り、森の南西では警備隊と、狼に似た魔物が交戦中だった。
 聞いた話と違うところがあるとすれば、戦闘の規模が大きくなっている点だろうか。
 魔物の数は多く、戦闘可能な者のほとんどが駆り出されているようで、乱戦状態。
 この状況でマリアベルが雑に魔法を使えば、味方まで巻き込んでしまう。
 だが、魔法を放つために兵を後退させれば、その隙に魔物を町へ向かわせてしまう可能性がある。

「なら……!」

 短く歌いながら、杖で空中に陣を描く。
 陣の前に現れた炎は、発射されることなく、マリアベルの杖に吸収された。
 刃に似た形をとった炎が、杖を覆う。
 広範囲魔法や、遠距離魔法が使えない場合に使用する、近接戦闘用の術だった。
 自在に形を変える炎の剣を持ち、マリアベルは戦場に飛び込んだ。


***


 魔物の大軍を狩り終え、兵たちとねぎらいの言葉をかけ合いながら後始末をし……。
 そんなことをしていたら、アーロンとの約束の時間を過ぎていた。
 先に抜けさせてもらったマリアベルは、急いでマニフィカ邸へと向かう。

「アーロン様! お待たせしてしまって、申し訳ありません!」

 ばんっと勢いよく、サロンの扉を開け放つ。
 はしたないかもしれないが、お行儀よく! という意識よりも、早くアーロンの元へ向かわねば、という気持ちが勝った。
 今ではほとんど使われていない場所だが、一応は客人用の部屋。
 アーロンがやってきたときは、サロンで話すことが多いため、執事に聞かずとも、彼の居場所はわかった。
 マリアベルの予想通り、そこにはアーロンの姿が。

「ベル!」

 マリアベルが来たことを理解し、ぱあっと瞳を輝かせた彼だったが……彼女の姿を見て、びしっと固まる。
 それもそうだろう。
 アーロンからすれば、遅いな、どうしたのかな、心配だな、と思いながら待っていた想い人が、血まみれの状態で現れたのだから。
 マリアベルに怪我はなく、全て返り血であることを知ると、彼はほっとした様子で着替えを促した。
 さらに待たされることになるが、領地を守るために戦う彼女のことが好きなアーロンが、不満を感じることはなかった。
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