鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 ほどなくして、アークライト家の使用人が、マニフィカ家に出入りするようになった。
 普段は、アーロンの姉妹の身の回りの世話を担当しているメイドだそうだ。
 そんな人を私につけていいの!? と思ったものだったが、メイド――ディーナは、なんの不満も疑問もなさそうだ。

「マリアベル様は、アーロン様の大切な人ですから」

 そんなことを言いながら、彼女はマリアベルの世話をする。
 朝と夜の手入れが大事だとかで、ディーナはパーティーの日までマニフィカ家に泊まり込むことになっている。
 入浴中も肌を磨かれ、そのあとは髪にオイルを揉みこまれ、丁寧に乾かされて……。
 同性とはいえ、他者に裸を見せる機会などほとんどなかったマリアベルは、「ひゃー!」と恥ずかしい気持ちになったものだった。

 手入れの効果は、徐々に現れ始めた。
 長さはそれなりだったものの、ぱさぱさのもさもさで、おろして人前に出ることはほとんどなかった髪は、ふわふわのつやつやに。
 かさつき、日に焼けた肌も白く透き通り始めた。
 ふと鏡を見たときに、これは本当に自分なのかと疑ってしまうほどの変わりようだった。

「……お嬢さんっぽい!」

 美しきご令嬢へと変わりつつある本人の感想は、これだったが。



 アーロンとの打ち合わせも重ね、髪や肌の手入れをされ。
 そんな風に過ごしているうちに、あっという間に入学を迎えた。
 入学式の朝。
 制服に着替えたマリアベルは、鏡の前でくるっと一回転する。

 美より修業と戦いよ! だった彼女だが、見た目がきれいになれば、やはり嬉しくはなるもので。
 ふわふわの銀髪に自分で触れて、えへへと笑った。
 こうなるよう手配してくれたアーロンには、大大大感謝である。

 自宅から通学するか、学院内の寮で暮らすか。
 通学に使える馬車などないマリアベルは、迷った。迷ったというか、通学手段がないのだから通常なら寮一択である。
 そんなマリアベルが自宅から学校へ迎える理由。それは――

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