鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 これまでのアーロンは、ミゲルがマリアベルの元へ向かうのを阻止するために昼休みを使っていた。
 しかし、二人を引き合わせてしまった今、アーロンを止めるものはない。
 マリアベルが学食奢りは気が引けるというのなら、自分がマリアベルに合わせ、弁当を持参すればいい。
 そう考えた彼は、弁当を持ってくるようになったのだが……。
 そのときには既に、マリアベルの隣にはコレット・コルケットがいた。

 コレット・コルケットは、髪も瞳もピンクの、可愛らしい女の子だ。
 愛らしい容姿と、貴族のご令嬢には少ない控えめな性格。
 支援や回復に長けた、抜きんでた魔法の才。
 コレットは、平民の身分でありながら、貴族の男子にも人気があった。
 マリアベルと親しくなったことで、「あの二人の組み合わせ、いいよな……」などと言う男子も出始めたほどである。

「相手が男なら、なにがなんでも割り込むんだけどなあ……」

 まるで不審者のように二人を覗き見ながら、アーロンは溜息をついた。
 お弁当を持ってこそこそと女子二人を見つめる、微笑みの貴公子。武の名門の嫡男。
 女子に見られたら、それなりに幻滅されそうな光景であった。


 アーロンは、ずっとマリアベルのそばにいたからこそ、彼女が友人を欲しがっていたことを知っている。
 せっかくマリアベルに友人ができたのに、男の自分がそこに割り込んでいくのは、なんだか気が引けた。
 今日もアーロンは、女子二人に混ざることができないでいる。
 
――仕方がない、今日も一人で食べるか……。

 と、アーロンが一人飯を覚悟し始めたころのことだった。
 ……ちなみに、アーロンにも友人はいるのだが、「女の子二人に混ざれないから、弁当持ってこっちに来ました!」などと話すのは流石に気が引けるため、大人しく一人で食事をとっている。

 アーロンが隠れているのとは違う方向から、数名の女子がマリアベルたちに近づいていった。

「あれは……。クラリス・グラセス嬢か?」

 マリアベルと同じクラスの、一年女子。
 愛しのベル以外の女にはあまり興味がないアーロンだが、公爵家の嫡男として、各家の人間の顔と名前ぐらいはそれなりに把握している。
 
 こつこつと威圧的に足音を立てながら、クラリスはマリアベルとコレットの前まで進んでいく。
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