鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

通りすがりみたいに出てくる男

「ごきげんよう。マリアベルさんに、クラリスさん。学食で見かけないと思っていたら、こんなところでお昼になさっていたのね。お弁当持参なんて、大変ねえ」

 二人の前に仁王立ちしたクラリスは、口に手を添えて嫌みっぽく笑う。
 アーロンにクラリスの声までは聞こえないが、仲のいい友人などではないことは、その立ち居振る舞いから理解できた。
 さらにクラリスは、お弁当に目を向けると、

「まあ、貧相なこと。まるで庶民の食事じゃない。ああ、お二人は学費も払えない特待生だったかしら。それなら仕方がないかもしれないわねえ」

 と、二人を嘲笑った。
 取り巻きたちも、クラリスの後ろでくすくすと笑っている。
 こういったことも覚悟していたうえに、既に慣れっこのマリアベルは、これぐらいではさほど動じない。
 
「あら、クラリスさん。ごきげんよう」

 と、にこやかに返した。
 マリアベルは、入学直後にクラリスの攻撃魔法をかるーく打ち消している。
 実戦経験の豊富なマリアベルからすれば、不意打ちであろうとも対応は簡単だ。
 クラリスは、そこでマリアベルと自分の実力の差を理解した。
 そのため、マリアベルに絡みはするものの、適当に相手をしておけば悔しそうに立ち去るのである。
 マリアベルは、クラリスに嫌がらせされていることは理解しているものの、彼女はさほどしつこくないと思っていた。
 だから、こうして受け流す。そのうち、飽きていなくなるだろうと。

 しかし、コレットは違った。
 高圧的な態度の伯爵令嬢を前にして、俯いて押し黙る。
 特待生で、平民のコレット・コルケットが、怯えている。
 その事実を感じ取ったクラリスは、気分をよくした。
 普段、マリアベルに相手にされない彼女のうっ憤は、コレットに向けられる。
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