鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~

早く婚約したい男と、囲まれる妖精姫

 マリアベルが女子の標的となっていることには、いくつかの理由がある。

 1つは、貴族の娘なのに貧乏で、学費免除の特待生であること。
 この時点で、わりと特異な存在である。
 そのくせ急にきれいになって現れて、男子にちやほやされ始めた。
 マリアベルはあまり意識していないが、男たちは「妖精姫」にメロメロで、婚約者もいない彼女をなんとかランチデートにでも誘えないかと苦心している。
 マリアベルが異性からの「学食奢るよ」を受けたのは、アーロンただ一人である。

 それから、ちょっとした演習でもわかるほどの、魔法の才。
 彼女は短い歌を詠唱とし、簡素な魔法陣を描いて魔法を発動させるが、これは並大抵のことではない。
 本来は、高等な術になればなるほど詠唱は長くなり、複雑な魔法陣を必要とする。
 他の学生であれば、長い長い詠唱を口にしながら、間違えないよう気を張りつつ陣を描かなければいけない術を、マリアベルは歌い踊るように発動させるのである。
 丸の中に、三角を二つ。それから、サラマンダーのつもりのにょろにょろを描きながら、歌――それも5音ほどである――を歌い、大きな火の渦を作り出したときには、教師も唖然としたものである。

 妖精姫とまで呼ばれる美貌を持つ彼女の歌声と軽やかな動作、その圧倒的な才に心奪われる者もいるが、やっかむ者だって当然存在する。

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