鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 すれ違いざまに声をかけてはみたが、彼がクラリスに言葉を返すことはなく。
 一瞬だけクラリスに視線をやると、すたすたとその場から立ち去ってしまった。
 学院入学前だったら、顔を合わせた際、「やあ、グラセス伯爵は元気かい?」ぐらいのことは言ってもらえた。
 それが今では、その程度の会話すらしてもらえない。作り物の笑顔すら、向けてはもらえない。
 アーロンは、彼の大切な人を傷つけようとしたクラリスを、嫌っている。
 幼いころから憧れ続けてきた、理想の王子様のような彼への恋は、もう実を結ぶことはない。

 考えてみれば、当たり前だ。
 クラリスだって、誰かがアーロンを傷つける場面を見たりしたら、その人のことを嫌いになる。
 アーロン様になんてことを、とんでもない人間だ、話したくもない。そんなふうに思うだろう。
 彼が大事にする人……マリアベルに手を出せば、アーロンに嫌われるのは当然のことだったのだ。
 あの優しく穏やかなアーロンに無視されるようになって、ようやくその事実に気が付いた。

 けれど、もう遅い。
 時は巻き戻らないし、自分の過ちも、なかったことになんてならない。
 クラリスは、自分自身の手で、アーロンに選ばれる可能性を完全に叩き潰してしまったのだ。
 クラリスの行いについて、マリアベルやアーロン、コレットが吹聴するようなことはなかった。
 だが、幼いころから好きだった人に嫌われ、恋が成就する可能性も失ったクラリスは、すっかり意気消沈してしまって。
 入学直後のように、マリアベルに絡むような元気は、なくなっていた。
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