鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
 クラリスの話を聞き、アーロンは納得した。
 マニフィカ領でも、似たようなことが起きていたからだ。
 マニフィカ伯爵は、魔物から領民を守るために尽力した。
 私財を売り払い、借金までしたのだ。
 マニフィカ伯爵は、本気で民を守ろうとしていた。
 それは、協力を要請されたアークライト家のアーロンだって、よく知っている。

 しかし、もっと被害を小さくすることができたのではないか、もっと早くに収束させられたのではないか、という見方をするものも、少数ではあるが存在した。
 となると、その娘であるマリアベルに対しても、厳しい目を向ける者はいたのだ。
 だが、マニフィカ伯爵家を非難する者も、自分自身や家族をマリアベルに救われて、彼女のファンになっていったものだった。
 マニフィカ領には、今のクラリスのような、マリアベルのファンが多いのである。
 マリアベルの幼馴染であるアーロンからすれば、「よくあるやつ……」といったところだった。

 クラリスの変わりっぷりに驚きはしたし、「ベルに嫌がらせをしていたのに」という気持ちも、全く存在しないわけではないが……。
 嫌がらせを受けていた張本人であるマリアベルが、クラリスを拒絶する様子はないのだから、まあいいのだろう。

 事実、マリアベルはクラリスの過去と今の違いを、さほど気にしていなかった。
 領地での経験もあり、実績や実力によって相手の態度が変わることには、もう慣れっこなのである。
 助けたことで、相手に感謝される。好かれる。
 過去はどうあれ、助けられた事実と実力を認め、「ありがとう」と言ってくれるのなら、その思いまで拒絶する理由はない。
 自分の力で助けられるなら、誰だって助ける。それで感謝してもらえるのなら、素直に嬉しい。
 マリアベルは、そういう人だった。
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