鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
3章 新しい関係

いつもと違う帰り道

 ある日の帰り道。
 一緒に馬車に乗り込んだアーロンは、なんだかそわそわしていた。
 いつもなら、にこにことマリアベルの話を聞いてくれたり、授業でよくわからなかった部分を先輩の彼に教えてもらったりと、二人からは会話も笑顔も絶えない。
 ……たまに、疲れたマリアベルが、馬車の中で眠ってしまうこともあるが。
 マリアベルが寝てしまった日は、アーロンは彼女の寝顔を眺めて幸せに浸っていたり、一緒になって隣で眠っていたりする。

 まあ、そんな具合で、婚約者でもない幼馴染の二人は、日ごろからとても和やかに登下校していた。
 しかし、だ。

「……それで、今度グラセス伯爵家でお泊まり会をすることになったんです! 夜遅くまでお話して、お菓子を食べて、みんなで同じ部屋で寝ようって。私もコレットも、今からすごく楽しみにしてて……」

 こちらは、上級生のアーロンはいない時間に、1年生女子三人で決めた話だ。
 アーロンは、マリアベルが友人を欲しがっていたことをよく知っている。
 だからか、普段なら、こういった話もにこにこと聞いて、「よかったね」「楽しみだね」と相槌をうってくれるのであるが……。
 何故だか、今日はあまりマリアベルのほうを見ず、落ち着きなく窓の外を見たりしながら、「うん」「そっか」と生返事をしている。
 塩対応、というほどではないのだが、いつだって彼に笑顔を向けられてきたマリアベルは、アーロンの態度を不思議に思った。

「あの、アーロン様。今日はお疲れでしたか……?」

 もしかしたら、アーロンは疲れているのかもしれない。
 彼は選択授業でも剣技を学んでおり、放課後も武術系の部活動に精を出している。
 最近は、魔法研究会にも顔を出すようになった。
 公爵家の嫡男だから、家でも相応の教育を受けていることだろう。
 身体も頭もよく使う人だ。帰りぐらいゆっくりしたい日があったって、なにもおかしくはない。
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