鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
――アーロン様の都合も考えず、一方的に話しすぎてしまったかしら。

 そう思い、マリアベルはちょっとしゅんとしながら口を閉じた。
 なんだか普段と様子が違うアーロンだったが、愛しのベルが俯いてしまったことには、すぐに気が付いて。
 慌てた様子で彼女に向き直った。

「いや、ごめん。そういうわけじゃないんだ。……ただ、ちょっと、その……気になることがあって……」
「気になること……?」
「ええと……」

 言いづらいようで、アーロンはマリアベルから目をそらしながら頬をかく。
 この反応からして、アーロンはなにか悩んでいるのだろうか。
 マリアベルは、昔から色々な面で彼に助けてもらっている。
 アーロンは公爵家の生まれで、本人もとてもしっかりしているから、彼が困っている場面や、マリアベルに助けを求めてくる場面には、ほとんど遭遇したことがない。
 けれど、もし、彼が困っていて、自分が力になれる場面があるのなら――。

「……アーロン様。なにかお困りでしたら、力になります! ……私ごときでは、できることは少ないかもしれませんが! 貧乏伯爵家の娘になにができるんだと、自分でも少し思いますが! それでも、ちょっとぐらいは、きっと……!」

 意気込みすぎているマリアベルを見て、アーロンは苦笑する。
 アーロンから見れば、「そこまで張りきらなくても大丈夫だよー」といったところだろうか。
 けれど、彼のはちみつ色の瞳には、愛おしさがにじんでいて。

「ありがとう、ベル」

 静かにそう言うと、彼はマリアベルの銀の髪をひと房とり、そっと口づけた。
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