鮮血の妖精姫は、幼馴染の恋情に気がつかない ~魔法特待の貧乏娘、公爵家嫡男に求婚されつつ、学園生活を謳歌します~
「勝者、アーロン・アークライト!」

 審判を務める男の声を聞き届け、アーロンは木剣をおろした。
 今の彼に、いつものような柔らかさはない。
 はちみつ色の双眸は、鋭く、冷たく。
 口元だって、笑顔なんてたたえてはいない。
 ぴりりと張り詰め、周囲の気温が下がりそうなその雰囲気は、武人としての彼が醸し出すものだ。

 アーロンの現在地は、学内の武術大会などでも使われる、王立学院の競技場。
 少し高い位置に客席もあり、今もそれなりの人数が観戦に訪れていた。
 剣の試合でアーロンに負けた男子生徒は、地面に四肢をついた状態で、「くそっ!」と悔し気に拳を振り下ろした。
 
 マリアベルとの婚約を発表したあとから、アーロンは男子生徒に試合を申し込まれることが増えた。
 彼の家柄や剣の腕前から、前々からチャレンジされることはあったのだが、最近は数が段違いだ。
 妖精姫への憧れを清算したい者、せめて剣技だけでもアーロンに勝ちたい者、VSアーロンブーム状態のこの機会に乗じて一戦交えたい者。
 理由は人それぞれだが、大半がマリアベル絡みだ。
 今日も軽々と一人叩きのめしたアーロンは、息を乱すこともなく、ゆっくりと客席を見回していた。

「……ベル!」

 客席に愛しい人の姿を見つけたアーロンは、先ほどまでのぴりっとした雰囲気が嘘のように、ぱあっと表情を輝かせる。
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