わたしだけの吸血鬼



「うわ、ギリギリ!」
「急げっ!」

 自主練に熱中していた私達はうっかり予鈴を聞き逃し、廊下を走る羽目になった。チャイムが鳴り始める直前に教室へと滑り込む。

「遅い」

 教壇にはしかめっ面の夜紅さんが立っており、私達に厳しい視線を送っていた。

「あれ?結美(ゆみ)先生は?」
「担任の結美先生は忌引きで休みだ。今日は私が代わりにショートホームルームを受け持つ。早く座りなさい」

 朝の寝ぼけ面はどこに行ったのか。
 髪をワックスで整え、ピシっとスーツを着た教師がそこにいた。一人称まで俺から私に変えるスイッチの切り替わりよう。
 どうやら二度寝は杞憂だったみたい。


「すみません、夜紅先生」

 私はそう謝ると窓際の一番後ろにある自分の席に着席した。着席するなり、点呼が始まる。
 夜紅さんは私が通うこの高校で英語の臨時教員として働いている。色つき眼鏡をかけたミステリアスな風貌が人目を引くせいか、女子生徒からの人気は絶大だ。

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