わたしだけの吸血鬼
◇
「うわ、ギリギリ!」
「急げっ!」
自主練に熱中していた私達はうっかり予鈴を聞き逃し、廊下を走る羽目になった。チャイムが鳴り始める直前に教室へと滑り込む。
「遅い」
教壇にはしかめっ面の夜紅さんが立っており、私達に厳しい視線を送っていた。
「あれ?結美先生は?」
「担任の結美先生は忌引きで休みだ。今日は私が代わりにショートホームルームを受け持つ。早く座りなさい」
朝の寝ぼけ面はどこに行ったのか。
髪をワックスで整え、ピシっとスーツを着た教師がそこにいた。一人称まで俺から私に変えるスイッチの切り替わりよう。
どうやら二度寝は杞憂だったみたい。
「すみません、夜紅先生」
私はそう謝ると窓際の一番後ろにある自分の席に着席した。着席するなり、点呼が始まる。
夜紅さんは私が通うこの高校で英語の臨時教員として働いている。色つき眼鏡をかけたミステリアスな風貌が人目を引くせいか、女子生徒からの人気は絶大だ。