わたしだけの吸血鬼

 ショートホームルームが終わると、一時間目は夜紅さんによる英語の授業だ。
 夜紅さんが朗読する英文を聞きながら過ごす朝は格別だった。夜紅さんの声は低くて、それでいて軽やかで、華がある。ずっと聞いていたいくらいだ。
 目を瞑り夜紅さんの美声に酔いしれていると、風が吹き、ふわりとカーテンが揺れた。春が終わり、本格的な夏が訪れる前の刹那。瞬きしている間に終わってしまうこの季節が私は大好きだった。

「東雲、どこを見てる?三十ページ、朗読しなさい」

(う、げっ……!)

 センチメンタルに浸っているところだったが、夜紅さんの容赦ない一言で現実に引き戻される。
 夜紅さんは一緒に住んでいるからといって、授業で手心を加えたことは一度もない。
 私は椅子から立ち上がると、指定されたページをしどろもどろで朗読した。
 前もって予習しておいて本当によかった。

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