わたしだけの吸血鬼
「……やめろ」
「起きてたんですか!?」
「気配でわかる」
夜紅さんは私からペンをひったくった。
「悪戯か。いい度胸だな?今日から一週間、ピーマンの刑に処す」
「うわ……最悪」
夕食当番の夜紅さんにはメニューの決定権がある。ピーマンは私が最も苦手な野菜だ。
「ほら、次の授業に遅刻する前にさっさと行け」
「ひどっ!」
行けと追い立てられ、私は凪沙の元へと逃げ帰った。
「遠い親戚同士だって聞いてるけど、本当に仲良いよね」
「一年も一緒に暮らしてればこうなるよ」
血縁関係のない私達が一つ屋根の下で暮らすためには色々な細工が必要だ。学校の皆は私達のことを親戚だと思っている。
けれど、私は夜紅さんのことを家族だなんて思ったことはない。
私は細心の注意を払い、遠くから夜紅さんの横顔を盗み見た。
私だけが知る灰色の色つき眼鏡越しではない紅い瞳。あの瞳を覗きこんでいると、どこまでも深くのめりこんでしまう。
私が見つめていることに気づいたのか、夜紅さんからふっと笑みが返される。微笑みひとつで、私の体温は急上昇した。やわな心臓が悲鳴をあげる。