わたしだけの吸血鬼

「何してるんですか?」
「読書」

 チラリと見せられた本の中身は全て英語だ。英語教師なだけあって、愛読書も英語らしい。

「そうやって夜更かしするから、朝起きられないんじゃないですか?」
「うるさい。さっさと寝ろ」

 ぐいっと引き寄せられ、頭が夜紅さんの膝の上に乗っかる。寝心地最高の贅沢な枕だ。
 私は何も言わずに目を瞑った。
 大人の男の人に手放しで甘えるのは、なんだかくすぐったい。

 両親が事故で亡くなり、夜紅さんと一緒に暮らしていることは先生もクラスメイトも知っている。
 学校では凪沙といる時以外、同情や憐れみの感情を向けられないように常に気を張っている。
 だから家では――夜紅さんの前では、弱いところを曝けだしてしまう。両親が亡くなってもう一年。ううん。まだ一年しか経っていない。

 ペラペラとページをめくる音と、カビ臭い本の匂いに包まれ、私は気がつくと夜紅さんの膝枕ですーすーと寝息を立てて寝ていた。
 夜紅さんの傍だと安心して眠れる。
 私は愚かにも一生こういう日が続くんだと思っていた。

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