わたしだけの吸血鬼
「また懲りずに人間と暮らしているとはな。彼女、昔お前が肩入れしていた女に似ているな。確か……『ナエ』だったか?もしかして血縁か?」
「答える義務はない」
「その様子だと、まだ手をつけていないようだな。吸血鬼としての本能をいつまで抑えていられるかな?」
(吸血鬼……?)
またまたとんでもない単語が出てくる。吸血鬼って、小説とかアニメに出てくる創作上の生き物でしょう?
「お前が吸わないのなら僕がもらうおうか。『マーキング』すらしていないなら、文句は言えないだろう?」
「流衣に手を出すな」
声しか聞こえないけれど、夜紅さんがすごく怒っているのはわかった。士門くんはここからでもわかるほどの、大きなため息をついた。
「もしお前が見境なく人を襲うようになったら、始末するのは僕の役目だ。肝に銘じておけ」
こちらに戻ってくる足跡が聞こえてきて、私は慌てて階段を駆け降りた。
一階まで全速力で走り中庭までやって来ると、ようやく足を止める。
(なんだったの……?)
ドクンドクンと心臓が痛いほどに鼓動を打つ。夏が始まろうとしているのに、額から冷たい汗が流れ出る。
大真面目な二人の会話は、おとぎ話のような内容にも関わらずどこか現実味があった。
普通の人は信じないだろうが、夜紅さんと一緒に暮らしている私にはわかる。あれは嘘や冗談の類ではない。