わたしだけの吸血鬼

「お、女子高生がいるじゃん」

 男性三人が目配せしながら立ち上がり、ニタニタと笑いながらこちらにやってくる。

(どうしよう……!)

 この場から逃げ出したいのに、足がすくんで動けない。私はあっという間に男性達に取り囲まれてしまった。

「そんなに怯えることないだろ?」
「結構可愛いじゃん!」

 辺りに充満するアルコールの匂いで、鼻が曲がりそうだった。相当酔っている。

「ねえねえ、こっちに来て一緒に飲もうよ〜!」
「大丈夫!何もしないから。ね?」

 とってつけたような優しい口調を使っても、よからぬことを企んでいることは透けて見えた。いくら誠実さをアピールしようと、酔っ払って女子高生に絡んでいる時点で行動に矛盾が生じている。
 
「い、嫌っ!離してください!」

 腕を引っ張られ強引に連れて行かれそうになり、私は必死になって身を捩った。

(誰か助けて!)

 助けを求めるべく視線を巡らせても、公園の中に他にはひとはいなかった。絶望に襲われたその時だった。

「流衣」

 突如、宵闇からヌルリと腕がのびてきた。男性達に包囲されていた私を抱き寄せ、救い出してくれたその人を仰ぎ見る。

「夜紅さん?」
「門限はとっくに過ぎている。帰るぞ」

 優しい深紅の瞳で見下ろされ、きゅうっと胸が締め付けられた。なんだか泣きそうだ。ほんの数分の出来事だったけれど、自分の短慮を猛省する。
 夜紅さんと一緒に早く家に帰りたかったが、物事はそう上手くはいかない。

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