わたしだけの吸血鬼



「食べないのか?」

 この日、夜紅さんが夕食に作ってくれたのは、私の好きなニラ玉だった。いつもなら秒でなくなるのに、今日はなんとなく食欲がわかなくて、まだ一口も口にしていなかった。

「体調でも悪いのか?」
「ううん!平気です!」

 私はなんでもないように振る舞うと、お皿に箸をのばした。

 私が夜紅さんの正体を知ってしまったことを気取られてはいけない。今の生活を続けるためには、何も知らないふりをしていた方がいい。

 士門くんとの会話の内容を思い出すと、途端に胃が重たくなる。
 情報量が多すぎて未だに心の整理がつきそうにない。
 私は夜紅さんに見つからないように、こっそりため息をついた。

「流衣、今週の日曜は暇か?」
「特に予定はありませんけど……?」
「もうすぐ誕生日だろ?少し出掛けないか?」
「いいんですか!?」

 私は喜びのあまりダイニングテーブルから身を乗り出した。
 十七歳の誕生日を祝ってもらえるだけでも感動ものなのに、一緒にお出かけなんて嬉しすぎる。

(どこに行こうかな〜)

 私は悩んでいたことをすっかり忘れ、浮かれ始めた。
 浮かれ過ぎた挙句に行き先を決めるまで二日もかかり、夜紅さんを呆れさせたのだった。

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