わたしだけの吸血鬼
「吸血鬼だからってなんなの!?私、気にしないよ!だって夜紅さんは夜紅さんだもん!」
「これを見ても、まだそう言えるか?」
夜紅さんは色つき眼鏡を外した。
水平線の向こうに沈んでいく夕陽よりも紅いクリムゾンレッド。瞳孔はおろか、虹彩まで真っ赤に染まった異形の瞳。
人間ではない証を見せつけられ、私は怯んだ。
「俺は瞳の色を隠せないほど弱ってる。士門の言うように、いつ本能が暴走するかわからない。そうなったらきっと一目散に流衣に襲いかかってしまう」
「私の血ならいくらでも飲んでよ……!」
「流衣、違うんだ。俺が血を飲まないのは、自分でそうしたいと望んでいるからだ」
吸血鬼にとって人間の血液が食糧だというのなら――私が唯一差し出させるものを拒絶されてしまったら、どうしようもない。
夜紅さんの中では叔母さんの家に行くことはもう決定事項になっていて今更覆せはしないのだ。
何を言っても届かない。
私は見捨てられてしまうんだ。
「お願い……。非常食でもいいから傍にいさせてよ……」
途中で放り出すぐらいなら、『俺と来るか?』なんて優しい台詞をかけてもらいたくなかった。
私の世界は変わってしまった。もう夜紅さんに出会う前には戻れない。