わたしだけの吸血鬼
「流衣、俺を困らせるな」
どれだけ懇願しても夜紅さんは首を振るばかりで、頷いてくれない。
夜紅さんは泣きじゃくる私を抱きよせ、子供をあやすように背中を撫でてくれた。我儘を言っているのは私だけみたい。
最後の思い出のつもりで、ここに連れてきたのは明らかだった。
私は最後なんて嫌だ。絶対に嫌だ。
観覧車が一周し籠が地上に戻るのと同時に、私は扉から飛び出した。
「流衣!」
悲痛な声に後ろ髪を引かれる思いがした。
(こんなのってないよ……!)
一度きりしかない十七歳の誕生日だったのに。誕生日プレゼントをもらえて、幸せで仕方なくて。そんな大切な日に天国から地獄に突き落とすなんて残酷だ。
(これからどうやって生きていけばいいの……?)
途方に暮れる私はメリーゴーランドの前で立ち止まった。幻想的なゆったりとした音楽とともに木馬や馬車がグルグルと回っている。
両親が生きていた頃、このテーマパークに遊びに来ると必ずせがんで乗せてもらった。私の中に残る幸せな記憶のひとつだ。
(お父さん、お母さん。私、どうしたらいい……?)
思い出に縋るように木馬をぼんやり眺めていると、突然背後でバチンと何かが切れたような音がした。
(なに……?)
驚いて後ろを振り返ると、ヒュンとワイヤーが鞭のようにしなっていた。さらに信じられないものを目撃する。