わたしだけの吸血鬼
(う、そ……)
ゆらりと傾いだ特大サイズのハニーちゃんと目が合い戦慄する。
身の丈の何倍もある看板が、ギイギイっと耳障りな音をたてながらこちらに倒れてこようとしている。逃げようとしても、もう間に合わない。
「流衣!」
『流衣!』
夜紅さんが必死になって走って来るのが視界の端に映る。
(や、こうさん……?)
死を覚悟した私には夜紅さんの声が重なって聞こえた。今わの際という極限の状況で、昔の記憶がフラッシュバックする。
あれは、そう。夏の盛りのことだった。
いつまでも鳴り止まない蝉時雨と、暑さのピークが過ぎ去った夕方の生ぬるい風。
私は保育園の先生と一緒に折り紙を折っていた。お迎えが最後になるのは今週になって三回目のこと。待つことには慣れており、私は大人しくお迎えが来るのを待っていた。
いつもと違ったのは迎えにやってきたのが、息せき切ったお母さんではないということだった。