わたしだけの吸血鬼

「看板をどかせっ……!今すぐ……に!」
「はいはい」
 
 士門くんがパチンと指を鳴らすと、看板がふわりと浮いた。
 夜紅さんが私を抱え看板の下から這い出ると、看板が再び地面に下ろされた。
 ズズンという地響きが辺りを支配する。
 救急車を呼ぶ声、子供の泣き声、テーマーパークのスタッフが慌ただしく走っていく。
 騒然とする事件現場で士門くんだけが不敵な笑みを浮かべていた。
 ゾクっと寒気がした。看板を倒したのは士門くんだと直感が告げている。

「うっ……!」

 夜紅さんのシャツがどす黒い血で染まっていく。脇腹からの出血が止まらない。

「夜紅さん……血が!」
「触るな!」

 触るなと怒鳴られ、差し出しかけた手を一旦引っ込める。
 
「で、でも……」
「俺に、触るな!」

 夜紅さんを中心にぶわっと風が巻き上がり、礫が顔に当たった。近づきたくてもこれでは近づけない。
 脇腹をおさえふーふーと荒い息を吐いている夜紅さんの目は充血したように真っ赤だった。

「あーあ。やっぱりこうなっちゃうんだね」

 士門くんは呆れたようにそう言うと、輸血用の血液パックを夜紅さんにひとつ投げてよこした。

「夜紅、飲まないと死ぬぞ」
「うるさい!」
「きゃっ!」

 目の前で血液パックが破裂し、腕で顔を隠す。弾け飛んだ血がピッと頬を掠める。

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