わたしだけの吸血鬼

「強情だね。どうしても飲まないっていうなら……消えてもらうしかないな」

 士門くんは頬についた血を指でこそぎ落としペロリと舐めると、やれやれと気だるげに首を鳴らした。

(消える……?)

 不穏な単語が聞こえてきて私は勇気を振り絞り、会話に割り込んだ。

「ちょっと待って!吸血鬼は死ぬの?」
「僕達は不老ではあるけれど、不死ではないんだよ。自己修復能力の限界まで痛めつければ灰になって消えるんだ。元々結構弱ってたしね。今ならさほど手間をかけずに死ねるよ。よかったね、夜紅。やっと望みが叶うよ」
「望み?」
「夜紅は、ずっと死にたがっていた。だから血を飲むことをやめたんだ」

 士門くんは風なんてものともせず、一歩一歩夜紅さんに近づいていった。
 どこから出てきたのか士門くんの背後には銀のナイフがいくつも浮いている。綺麗な円形は偶然作り出したものではない。
 ぜいぜいと荒い息をする夜紅さんがあのナイフで貫かれたらひとたまりもない。
 士門くんは本気だ。本気で……夜紅さんをこの世から消し去るつもりだ。

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