わたしだけの吸血鬼



 ザザーン――……。
 ザザーン――……。

 どこかで聞いたような懐かしい音がして、私は瞼を開けた。
 先ほどテーマパークにいたはずなのに、私は制服姿で砂浜に立っていた。
 足元にヒタヒタと波が押し寄せる。靴を履いていない素足に、海水はヒヤリと冷たかった。

(これは夢……?)

 髪をなびかせる風はまるで本物のような潮の匂いを運んでいる。
 そのまま水面を眺めていると、誰かが砂浜を歩いてくるのが視界の端にとまった。ギュッギュと砂を踏み分ける音が近づくにつれて、おぼろげだった姿がはっきりしてくる。

「流衣……」
「あなたは……」

 私の名前を読呼んだ女性は椿が描かれた藍色の着物に紅色の帯を締めていた。左の目元に小さなホクロがひとつ。
 まるで鏡を見ているように私にそっくりだった。

「もしかして……奈江さん?」

 奈江さんはゆっくりと頷いた。

「夜紅を助けてくれてありがとう」

 鈴が震えるような澄んだ声だった。凛として涼やかでどこか気品がある。顔は同じなのにがさつな私とは大違いだ。

「お礼なんて……そんな……」

 私はただ夜紅さんに生きていて欲しくて必死だっただけで、お礼を言われることは何もしていない。
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