わたしだけの吸血鬼
「いいえ。お礼くらい言わせてちょうだい。私が夜紅にかけてしまった死の呪いが解けたのはあなたのおかげよ」
「死の呪いって何ですか?」
そう尋ねると奈江さんは目をぎゅっと瞑り苦しそうに顔を伏せた。
「私ね、病気だったの。ひとりで死ぬのが苦しくて、寂しくて。『一緒に死んで欲しい』と愚かな願いを彼にしてしまった。同じ時を生きられないならいっそ……それが大きな間違いだった。今ならよくわかる」
夜紅さんはどんな思いで奈江さんのお願いを聞き入れたのだろう。
士門くんの言うことが本当なら吸血鬼は容易く死ねないはずだ。だからこそ夜紅さんは命の源である人間の血を飲むのをやめたのだ。
(辛かったんだよね……)
私はこの場にいない夜紅さんのことを想った。
夜紅さんと奈江さん二人の関係は私にはわからない。
けれど、奈江さんが亡くなって一人きりになった夜紅さんの気持ちはよくわかった。
なんて哀しくて、愛おしいんだろう――……。
「これからもどうか夜紅の傍にいてあげて。あなたにしか頼めないの。彼を愛しているのなら最後まで運命に抗って……!」
奈江さんの声が徐々に遠ざかっていく。意識が一度途絶えると、突然視界が反転した。