わたしだけの吸血鬼



 夢から覚めると、よく知る自分の部屋のベッドで寝ていた。

(ここは現実?)

 ベッドから起き上がり夜紅さんに噛まれた右の首筋をさすってみたが、噛まれた痕はどこにもなかった。

「吸血痕なら残らない。そういうものだ」

 夜紅さんは椅子に座り、ジッと私の様子を窺っていた。私が目を覚ますのを待っていたのだろう。

「怪我は!?」
「全部治った」

 本当かどうかを確かめるため、私は夜紅さんの身体をあちこち触った。
 脇腹にあった傷も塞がっている。血色もいい。温かい。生きてる。

「よかった――……」

 クターっと身体から力が抜けていく。冷たくなっていく身体、青白い顔のことはどうやったって忘れられない。

「流衣」

 夜紅さんは私を労るように頬を撫で包んだ。ふわりと手で撫でられると心地よかった。

「痛くなかったか?」
「平気です。夜紅さんが痛くするわけないもん」

 夜紅さんに気を遣っているわけではなく、本当に痛くなかった。夜紅さんは極限状態の中でも、私を傷つけまいと手加減してくれたのかもしれない。

 夜紅さんは私をきつく抱きしめてくれた。
 そして、そのまま私の肩に顔を埋めると、動かなくなった。

「あの……夜紅さん?」
「……今度こそ死ねると思ったんだ」

 奈江さんの願いは確かに夜紅さんを蝕んでいた。強い想いは時として呪いに転じてしまう。

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