わたしだけの吸血鬼
(そうか、目印か……)
私にとってはファーストキスだったのに、夜紅さんにとっては単なる目印。ちょっとへこむ。
がっかりと肩を落とす私を士門くんはニヤニヤしながら眺めていた。
「看板の下敷きにしようとしたことを謝る代わりに、いいことを教えてあげよう」
「……なに?」
殺されかけたことをそう簡単に許したりするものですか。こう見えて結構根に持つタイプだ。
士門くんはもったいぶるようにふふんと楽しげに笑った。
「マーキングは唇にする必要はないんだ。マーキングの意思をこめれば、手でも、額でもどこでもいい」
「それって……」
「こういうの『ムッツリスケベ』って言うんだっけ?」
「語彙が昭和……」
「人間の言葉は移り変わりが早すぎるだけだよ」
マーキングにかこつけてキスをしたってことは……期待してもいいってこと?
(うわ、嬉しい――……)
今すぐ万歳三唱して、小躍りしたい気持ちなる。
しかし、はしゃいでいられたのも束の間。私はここにきて大変なことに気がついてしまった。