わたしだけの吸血鬼

「……うるさい。もっと静かに起こせ」
「夜紅さんが起きないのが悪いんですよ!」

 夜紅さんは朝がめっぽう弱く、いつも起こすのに苦労している。
 大の大人が毎朝女子高生に起こされて恥ずかしくないのだろうか。
 世間一般の声など一切気にしないのが、夜紅さんらしい。

 夜紅さんは亡くなった両親の友人で、親戚に疎まれていた私の面倒を見ると手を挙げてくれた奇特な人だ。

 夜紅さんが親戚達にそう告げた時、彼等は反対するどころが、嬉々として私を押し付けた。血の繋がった親戚の方が薄情なんだから、始末に負えない。

「まだ六時かよ。起こすのが早すぎる」
「今日は球技大会の朝練があるんです」
「球技大会で朝練なんかするなよ……」
「優勝したら焼肉優待券五万円分だから、みんな真剣なんですよ!」
「はあ……。起きるか……」

 ようやく観念した夜紅さんはスウェットから覗く脇腹をボリボリ掻きながら、ベッドから起き上がった。

 芸能人顔負けの整った面差しなのに、仕草がどうにもおじさん臭いのがもったいない。

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