格好のつかない黒羽くんは今日もにぶい。
「あはは。誰かに手当てしてもらうのって久しぶりだから,ちょっとどきどきした」
大したことない傷を相手に,そんなことを言われて。
私は想像していなかった出来事に,分かりやすく戸惑う。
「っ,変な言い方しないで。緊張したって言ってくれる?」
「一緒じゃないの? それ」
「……たしかに。ごめん,私が変なこと言った。ほら,もう戻って。鐘なってるから着替えなきゃでしょ」
私は,月くんにもどきどきして欲しい。
それこそ,雪乃さんにしてるみたいに。
だけど,そんな意味を含まないんだったら,紛らわしいことを言わないで欲しいと思ってしまったの。
だから簡単に動転してしまう。
……テープ,出しとかなきゃ。
私ももう休めないからと,月くんの後を続いて保健室を出た。
たった2人の時間は,今までもこれからもそうそうなくて。
だから,あんなに嫌味だった頭痛でも,今ならあって良かったと思う。
絆創膏をただ渡してあげるなんて,そんな簡単で誰でもいいことなら。
誰でもいいことだけは,せめて私がいいと,小さく思った。