格好のつかない黒羽くんは今日もにぶい。
顔をそらそうとして,私はその動きが止まるのを僅かに捉えた。

一瞬にして表情がころころと変わっていく。



「……?」



動かない月くんに,泣いていた雪乃さんは顔をあげる。

多分,ハンカチは月くんのポケットに無かった。

取りに席へも戻らないところをみると,この場にすらない。

と,月くんは何かを思い出したようにして今度はブレザーのポッケに指先を向かわせる。



「! ……ごめん,ちょっと固いかもしれないけど」



完璧ではない渡しものに,申し訳無さを乗せてしまうから。

ポケットティッシュなんて自分でも持っていて,"ハンカチを人に貰うから"意味のある行為だと思っているであろう雪乃さんも,その空気によって更に戸惑った様子を見せた。

かっこよかったのに,格好がつかない月くんは。

だけどやっぱり,優しかった。
< 13 / 31 >

この作品をシェア

pagetop