格好のつかない黒羽くんは今日もにぶい。
「奥西さんが言いたくないなら,いいよ,俺。ちょっとだけ楽しい話するから,言いたくなるまで聞いててよ」



私が悲しい分の代わりだと言うように,月くんは提案した。

普段から人通りの少ない階段の踊り場にしゃがみ,何も応えない私に一方的に話し出す。



「雪乃ちゃん,彼氏出来たんだって。その時の雪乃ちゃんがまた,ちょっと可愛くてね?」



ドキンとした。

楽しい話って,言ったのに。

いいよ,そんな話なら。

私のためにそんな話しなくていい。



「わたし,も。……失恋,したの。それを明かすのが痛いってことくらい,分かるから。話さなくていいよ。心配しなくてもいい,授業も戻ろ?」



月くんは物凄く驚いた顔をして私を見上げる。

なに? 私が恋してちゃ,そんなに意外?



「あ,れ。奥西さんって,失恋した時泣いちゃうタイプなの……???」



私はその意味が分からなくて,は……と音を発した。
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